接着治療〜破折歯の接着治療

破折歯の接着治療

破折歯接着治療(はせつしせっちゃくちりょう)

一般的に、破折した歯は抜歯の対象となることが多いようですが、割れた歯も初期の段階であれば、最新の接着材で割れた部分を修復し、新しいグラスファイバーの支柱を立てる方法で治療し修復する事ができます。

また、破折に気づかずに放置され割れた部分が分離してしまったような歯の根であっても「再植」という治療法を用いれば、割れた歯や欠けてしまった歯も以前と同じように使えるようになります。

ただし破折歯治療の予後は必ずしも元々の歯と同じとは限らず、破折線に沿った深い歯周ポケットが残存したり、再感染・再破折する可能性があります。
破折歯の全てが保存出来るわけではなく、崩壊の程度・破折部位や方向・破折からの時間の経過などが複雑に影響する可能性があり、歯を保存することが出来ないこともあります。
症例の選択と診断が重要となり、予後不良と考えられる場合はその他の治療(ブリッジやインプラントなど)を考慮する必要があります。

「再植(意図的再植)」について

再植というのは、一度歯を抜いて口の外に取り出し顕微鏡で見ながら、炎症のある悪い部分を処置して割れた部分を接着してから再度元の場所へ戻す方法です。

治療上の理由から行うので 「意図的再植」 といわれています。意図的再植は、抜歯以外に治療法がないとして捨てられてしまう運命にある歯を救うための最後の手段とする方法で、かなり特殊な治療法といえます。

  • 01 歯根破折と診断
  • 02 割れた歯を、歯根膜を傷つけないように抜きます。
  • 03 病気の部分を処置して割れた歯を接着します。
  • 04 再び元の場所に戻します。

再植が可能なワケ

現在は、歯の再生に成功する確率が非常に高くなっています。

① MSBパック(眞坂式スーパーボンドパック)

歯根膜や骨組織に関する病理学的研究と治療技術が進んだことに加え、手術後の傷口を保護したり固定したりする接着性の「MSBパック(眞坂式スーパーボンドパック)」 を開発 したことによります。

MSBパックとは、再植した歯を任意の位置に固定するために用いるのが接着性パックで、当院会長の眞坂信夫の開発によるMSBパック(眞坂式スーパーボンドパック)を言います。これは歯の固定だけではなく、手術後の傷口を良好に保護することが病理組織学的に証明されました。歯の象牙質に接着する歯科用接着剤として世界で最初に開発されたのがスーパーボンドC&Bという医薬品です。当院会長の眞坂信夫は、このスーパーボンドC&Bの臨床試験を、開発者の増原英一先生に依頼され(1 9 8 0年)、以後、臨床応用で多くの実績を積み上げてきました。その成果の一つがMSBパックです。

② 歯根膜の損傷の程度

また、再植を成功させるためのもっとも大切なことは、 “歯の再生に重要な役割を果している 「歯根膜」 の損傷がどの程度か” という事です。歯根膜とは、歯とその土台となる骨とをつなぐ役割を果たしているごく薄い(0 .2 5㎜± 5 0 %程度)組織です。

歯根と歯槽骨との間でクッションの役割を果たすと同時に、歯根膜を通る血管は、歯周組織に栄養を送り、神経は歯の受けた刺激を脳へ伝えます。

また歯根膜は骨を作る能力をもっています。
したがって、歯根膜が健全な状態で移植・再植ができれば、植えられた歯は歯根膜の作用によって回りに骨ができ、徐々にその機能を再生していくのです。

ただし、歯周病に限っては、この歯根膜が細菌によって犯されてしまうので歯がグラついた挙句に抜け落ちてしまいます。抜けた歯は歯根膜を失っているので、再植はできません。

成功率の高い再植ですが、もしも、歯根膜が大きく無くなっている場合には、再生が難しくなります。また、抜いてみて肉眼で確かめた結果、再植しても再生が無理であると判断する場合もあります。

PDM21の活動について

PDM21 は『真っ当な診療を行い,真っ当に評価され る歯科医療制度の構築』を目的にした歯科専門職の集 まりである。そして、この活動は地域単位で行われて おり,PDM 札幌をはじめとして活発に活動を展開している。

日本の医療制度は誰もが制約なしに医療機関を選択 できる,世界に冠たる素晴らしい制度である.しかし この制度は,国民皆保険制度の下で需要面は社会主義 的制度で,供給面は開業自由の自由主義的制度で市場 化されているため,矛盾が多い.また,この制度は出 来高払い方式であるため,医科においては過剰診療や 過剰検査を行うほど,歯科においては数をこなすほど 収入が増える形となる.このため,政府は医療費の膨 張を低点数の価格統制によって抑制してきたが、日本 が高齢者時代に突入したことでこの医療制度が国家財 政を大きく圧迫するようになり、診療報酬体系の見直 しが課題となってきた。

このような状況下で,歯科医療においては医科以上 に低い点数で抑えられているため,専門職として行使したい医療技術の展開がきわめて難しい状況にある. 結果的にはこれが歯科医療の社会的評価を低くし,日 本社会に貢献できる歯科医療の価値が理解されない状 況を作り出している。

歯科医療には超高齢化社会で増加する要介護者の数 を減らすことで,窮迫している日本の医療財政を大きく改善できる力がある.食は生命の根源である.咀嚼 は頭脳活性の根幹である.これを良好に維持する歯科 医療には,高齢者の QOL を高くしながら寝たきり老人 を減らし,要介護者を少なくする力がある。質の高い 歯科医療は長期経過で評価すれば,時間の無駄と費用 の無駄がなく、何よりも歯が失われない。これを実証し, 歯科医療の低医療費政策を変える基盤を作る.これが PDM21 の目標である。

そこで私たちが提案する,保険医療制度の改変を目 的とした活動であるが、それには、

①まずは,現在の 医療制度の中で保険診療と自費・自由診療を併用する ことで歯科医療の質を確保する。

②質を確保した治療 内容とその結果をデータ化し,質の高い歯科医療が時 間的・経済的に得策であることが理解できるようにする。

③集計したデータを Web で公開し、社会から歯科 医療制度に質の確保が必要であるとする要望の声が上がるようにする。

そこで,まずは歯科医療の質を確保するために行う 保険診療と自費・自由診療の併用である。これは多くの歯科医院が日常的に行っているが,ここには2つの 問題がある。それは、自費・自由診療の併用が社会からは歯科医院の金儲け手段と受け取られ批判されてい ることであり、また、保険制度のルールに外れた方法で自費・自由診療の併用を行ったことで受ける個別指 導である。しかし、これは難しい問題ではなく、為す ことを為せば容易に受診者に受け入れていただける問 題である。また、ルールを守ることも難しいことでは ない。PDM21 はこの課題に積極的に取り組み、成果が 得られるように情報を交換し、良質の歯科医療を維持 するために努力している歯科医療従事者が報われるようにする方法論を提示している。

具体的には,最初に取り組みやすい課題として、破折歯の接着治療に熟達し、その治療法のマネージメントを明確に提示して受診者に喜んでいただけるシステムの構築を勧めている.“ 破折歯の接着治療 ”は歯を残す治療としてその価値が受診者に判りやすい。一般的 に歯根破折は抜歯と診断され、インプラントかブリッ ジを勧められているが,現在の受診者はインプラント に大きな不安を抱き、また、歯を切削するブリッジは 避けたいとする思いが強い.したがって,初診時に破 折歯接着治療の質的内容が理解できるコンサルテー ションと明確な治療計画書の提示を行うことで納得し ていただき,治療終了後には喜んでいただける環境を 構築することができる.しかし,この治療法は自由診 療となるため,保険診療との使い分けを明確にしなけ ればならない.この,保険診療のルールを守りながら 自由診療に切り替えるマネージメントの構築は医院の 安定した経営に大きく貢献する.課題は破折歯接着 治療の治療技術の習得である.これについては,現在 Web 会議による症例検討会の構築をベースにした認定医制度を検討中である。

眞坂信夫(東京都世田谷区・眞坂歯科医院)

関連記事[スタディグループ PDM 札幌の活動から]が 月刊『日本歯科評論』NO.856,VOL.74(2),2014 年2 月号に掲載予定です.

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